第四章  白い羽根の少年  〜Is he an angel?〜


ヤツは俺の態度の微妙な変化に気づいたのか、それともまた俺の思考を読み取ったのか、自分もさっきからしているおどけた表情を少し改め、警戒心を和らげるかのように一歩だけ俺との距離を遠ざけた。

「んーと...色々言いたいことはあるんだけど、とりあえず失礼なことしてごめんね。」

「ごめんじゃなくて、俺が聞きたいのはアンタは何者なんだってこと!」

「...あのさ、今日何月何日だか知ってる?」

「――。」



きっと堪忍袋ってのがほんとにあって、そんでもってその緒ってのがなんとかってのに耐えきれなくなると切れちまうってのもほんとなら――


今がまさにその時。


「こーのーやーろー」
「わゎっ!?い、痛いイタイいたいぃぃぃ!!???」

ソイツの両耳は全力で俺に引っ張られてた。

「人の話を聞かない耳などちぎれてしーまーえー!」
「ギャー!!」


敢えて言うが、俺は比較的気が長い方で、例えプッツンしたとしても暴力に訴えることはまずない。
それでもさすがにコイツの一方通行な会話(そもそも一方通行なら会話とは言えないが)にはプッツンもするし、ちょっとくらい痛い目にだって遭わせてやりたくなるのだ。
それぐらいは大目に見てほしい。


あいかわらず両耳を引っ張られているソイツは必死にもがきながら逃れようとするが俺の怒りはちょっとやそっとじゃ収まらない。

が、こうしてずっと引っ張ってても埒が明かないので力を緩めて(まだ放しはしないさ!)もう一度問いかけた。

「お前、一体なんなんだよ!?」
「だから、今日はクリスマスでしょ!俺は今日この日のために上からハルバル降りてきたの!」
「言ってることがさっぱりわからん!」
「だからぁ!俺は天使!!」
「!????」



怒鳴りあいの質疑応答はなんともファンタジーな“応答”で幕を閉じた。
そして後に残ったのはハテナマークの嵐。

俺は目をまん丸くしたまましばらく固まっていた。
頭の中でいろんなことが駆け巡る。

そして出した結論―。

「病院行くか。」

今の今までヤツの耳を引っ張っていた両手に同情をたっぷりたたえてそのままソイツの肩にぽんっと下ろして言った。

「脳外科かな?それとも精神科か?」
「信じろよ。」
「誰が信じるかよ。そんな“嘘”以外のなにものでもないような自己紹介。」

間髪いれずにそう言い返すと、

「傷つくなぁ。自分の存在が認めてもらえないって。」

ヤツはしょんぼりと、だがわざとらしく肩を落としてため息をついてみせた。

その言葉がズキリと胸に突き刺さったように思えた。

――『自分の存在が認めてもらえない』

それは今の俺の状況そのままだった。
声が彼らに届かない。

「...悪かったな。」

少々バツの悪い体で謝った。あの人たちと同じことをしているのかと思うとなんとなくやりきれなくなった。

当の本人はというと
「まぁ、気にしないけどね。今日はクリスマスだし。」

と訳のわからない理屈であっさり立ち直っていた。

「...おまえって本当にわかんないヤツだな。」
「ふふん、常人と一緒にされちゃぁ困るなぁ」



殴りたくなった。