第二章 〜賽は投げられて...〜


死の森は昼間でも光が差し込むことはなく、
一日中薄暗いままだ。とだれかから聞いたことがある。

ましてや今は夜だ。

暗すぎて自分が今どこにいるか、道は右なのか左なのか
それとも真っ直ぐでいいのかすらわからない。

「...やっぱり外で夜が明けるのを待ってたほうがよかったかな...」
口に出して言ってはみたものの、今更引き返すわけにはいかない。

ロイはしかたなく明かりをつけようと手探りで荷物の中のランプを探した。

と、ふいに近くの茂みからがさがさと音がした。
獣だろうか。

「魔物だったらまずいな...」

音は次第に近づいてくる。

ロイはそっと腰のほうに手をやり、短剣の柄を握り締めた。

ロイの心臓は音が近づくたびに速くなっていった。
なにしろ向こうは夜目でも利くのだろう、正確にこちらのほうへ近づいてくるのに対し、
ロイのほうの視界はほとんどゼロに近い。
頼りは自分の耳と運しかない。お守りだってルキしか守ってくれないだろう。
当てにはできない。


もう、自分と音の間は三メートル程度しかない。

なんとかギリギリまで引き寄せて一気に喉元を貫かなくては...!

ヒタ、ヒタと草を分け、踏みしめる音と共に鼓動が速くなる。
ロイは必死に闇の中の更なる闇に目を凝らす。

一歩。


二歩。



ロイとの間は恐らく二、三歩――。


急に土を力強く踏む音がして、一瞬後足音が消えた。

気配も消えた。


――いや、違う!!

「上かっ!? 」

ロイは頭上を振り仰いだ。

そこには二つの真っ赤な目玉をカッと見開いた獣がいた。
口を大きく開け、ロイの頭を噛み砕こうと飛び上がってきたところだった。

「くそっ!!」

ロイは素早く短剣を自分と獣のガッと開かれた口との間に割り込ませた。
そうすることで獣の自滅を図ったのだ。

と、ふいに横からぶんっと音がして次の瞬間何かが獣の横っ面を叩き飛ばしていた。
獣はそのまま近くの木に頭から激突し、何度か立ち上がろうともがいた。

だがいくらもしないうちにぐったりと力尽き動かなくなってしまった。